旅行や子供撮影、あるいはモデルさんとじっくり向き合える個撮であれば、私はこのレンズを選ぶことはありません。理由はシンプルで、片手で持つには躊躇するほどの大きさと重量感があるからです。

しかし、もしそれが「団体撮影」のような、時間が一人数分づつと厳密に区切られている撮影会であれば話は180度変わります。そうした現場において、これ以上に心強い選択肢はありません。それが今回ご紹介する「TAMRON 35-150mm F/2-2.8 Di III VXD(Model A058)」です。

本レンズは、広角端35mmから望遠端150mmまでをカバーしつつ、開放F2-2.8という驚異的な明るさを実現したタムロンのフラグシップズームレンズです。外観は艶消しのブラックで統一されており、鏡筒には確かなビルドクオリティを感じる金属パーツと、ホールド感の高い幅広のラバーリングが配されています。

マウント部から力強く立ち上がる大口径の筐体には、フォーカスセットボタンや各種カスタムスイッチが整然と並び、撮影現場での直感的なコントロールを可能にする合理的な設計が施されています。

美しいコーティングが施された82mmの巨大な前玉を覗き込むと、何枚もの高精度なガラスレンズが緻密に配置されているのが分かります。
今回のフィールドワークでは、福岡からはるばる名古屋へと遠征に来てくれたこもれびもかさんにご協力いただいて撮影を行いました。

印象的だったのは、彼女が地元福岡のお菓子に手書きのメッセージと一緒にカメラマン一人一人に手渡してくれたことです。団体撮影という少し緊張感のある現場が、彼女のこの温かい気配りと人懐っこいキャラクターによって一瞬で和やかになり、カメラマンたちの撮影モチベーションも非常に心地よく高まっていきました。
こうした周囲を自然と笑顔にする魅力を持った福岡女子と、名古屋のロケーション、そしてタムロンの怪物レンズが合わさったとき、一体どのような化学反応が起きるのか。
こもれびもかさんの瑞々しい作例とともに、この大口径ズームがもたらす快適性とコストパフォーマンスを、フラットに検証していきます。
昨今、物価上昇に伴い、機材は年々価格が高騰しています。いろんなレンズを試してみたいけど、なかなか買えないというのが実情ではないでしょうか。
それは私も含めて同じです。
そこで登場するのがレンタルサービスです。きっとあなたの使ってみたい機材が下記のレンタルサービスにあるはずです。是非チェックしてみてください。
レンズ構成とMTF特性曲線

タムロンの35-150mm F/2-2.8 Di III VXD(Model A058)は、15群21枚というズームレンズの限界に挑むような、極めて高密度で贅沢な設計がなされています。 レンズ構成図を見ると、4枚のLD(異常低分散)レンズに加えて、3枚のGM(ガラスモールド非球面)レンズを適所に配置することで、大口径ズームで最も懸念される色収差や諸収差を徹底的に抑え込んでいることが分かります。
この広角端35mmから望遠端150mmまでをカバーする「F2スタート」という圧倒的なスペックは、単焦点レンズ数本分の役割を1本に集約できるため、機材を複数持ち歩く手間や重さのストレスを劇的に軽減してくれるのがメリットです。 撮影現場でのレンズ交換の頻度が減ることは、シャッターチャンスを逃さない効率的な運用に繋がり、機動力の面でも非常に大きなメリットをもたらします。

MTF特性曲線を確認すると、このレンズが単なる「便利なズームレンズ」の枠を超え、単焦点レンズに匹敵する極めて高い解像性能と基本ポテンシャルを維持していることが読み取れます。
まず、広角端35mm・F2開放時のグラフを見ると、コントラストの指標となる10本/mmの曲線が、画面の中心からフルサイズの周辺部に至るまで「1.0」に近い極めて高い数値を維持しています。 これにより、絞り開放のF2という明るさから、非常にクリアでヌケの良いメリハリのある画像が得られます。
解像力の指標となる30本/mmの曲線についても、中心部では0.9を超える高いレベルを示しており、被写体の細部まで緻密に描き切る能力を備えています。 周辺部に向けて曲線はなだらかに低下していますが、ポートレート撮影などで重要となる中心部の画質は圧倒的であり、実用において不満を感じる場面はほとんどありません。

さらに、ポートレートの王道焦点距離である85mm・F2.8開放時のグラフでは、その解像性能がさらに安定します。
10本/mmだけでなく、30本/mmの解像力の曲線までもが画面の隅々まで非常に高い位置でフラットに推移しており、モデルの瞳や髪の毛の質感を妥協なくシャープに描写することが可能です。

望遠端150mm・F2.8開放時のグラフでも、中心部の高いシャープネスはしっかりと維持されています。 周辺部では放射方向と円周方向の曲線の乖離が見られますが、これはズーム全域での高いコストパフォーマンスと利便性を両立するための割り切りであり、中心部の被写体を際立たせて周囲を滑らかに溶かすポートレートの用途においては、むしろ自然で立体感のある美しいボケ味を生み出す一助となります。
機材を何本も買い揃えるコストを抑えつつ、これ1本で単焦点クオリティのポートレートからスナップまでを網羅できるため、撮影の効率と作品の完成度を同時に高めてくれる、極めて実利の高い優秀な一本です。
中部電力 MIRAI TOWERからスタートする、大口径ズームの押し引きの魅力
名古屋のシンボルである「中部電力 MIRAI TOWER」周辺のストリートからスタートしました。
団体撮影において、ズームレンズがもたらす最大のメリットは「瞬時に構図の押し引きを完結できるフットワークの軽さ」にあります。単焦点レンズでは諦めるしかなかった画角のバリエーションを、タムロンの35-150mmがどのように表現していくのか、実際の作例とともに見ていきましょう。
1. 広角端35mmがもたらす、ダイナミックなロケーション表現
まずは、このレンズの広角端である35mm(開放F2)を使用したカットです。

画面いっぱいにそびえ立つMIRAI TOWERの鉄骨と、突き抜けるような青空、物理的なストリートの要素を1枚に収められるのは、広角35mmという画角ならではの強みです。
このカットでは、あえてカメラを少し斜めに傾けて撮影しています。ストリートポートレートにおいて、水平垂直をあえて崩すことで、写真にスナップ特有の軽快な動き(リズム)が生まれます。もかさんの配置と相まって、名古屋市をお散歩しているかのような臨場感を一瞬で作ることができます。
2. ズームリングを一回し。中望遠域で作る端正なストリートスナップ
同じロケーションを少し歩きながら、今度はズームリングを回して中望遠域(50mm付近)へとシームレスに移行します。

ストリートに佇むアンティークなショーケースに寄り添うもかさんを、中望遠の自然な距離感で切り取りました。背景の新緑が滑らかにボケ始めることで、都会の喧騒がスッと消え去り、もかさんの透明感のある表情が一際引き立ちます。
3. 望遠端123mmが魅せる、圧倒的な圧縮効果とボケ味

さらにレンガ壁沿いにしゃがんでもらい、正面から視線を捉えたカット。こちらもレンガのラインをあえて斜めに走らせることで、視線が自然ともかさんの瞳へと誘導される構図にしています。
35mmの時のダイナミックな広がりから一転して、今度は被写体との距離感がグッと縮まったような、落ち着いたポートレートへと一瞬で表現を変えることができます。レンズ交換のためにモデルさんを待たせるストレスは一切ありません。
緑豊かな都会のストリート|焦点距離がもたらす空間表現の変化
続いてのロケーションは、夏を前にした新緑が非常に美しい、都会のストリートです。同じ場所、同じ被写体であっても、焦点距離を瞬時に切り替えることで写真の持つ雰囲気やストーリー性は全く異なるものに変化します。ズームリングを一回しするだけで得られる、表現の多様性について見ていきましょう。
1. 80mm〜90mm域が描く、優しく包み込むような新緑の世界
まずは、ポートレートの定番域である中望遠(83mm)で撮影した1枚です。

83mmの画角では、もかさんの頭上を覆う豊かな緑の葉を前ボケ・背景として大きく取り込みました。周囲の余計なストリートの要素を適度に整理しつつ、もかさんの視線と美しい緑のグラデーションが主役となる、非常に調和のとれた1枚に仕上がっています。

ほぼ同じ立ち位置から、わずかにズームを伸ばした89mmのカットです。もかさんの横顔にクローズアップしつつ、背景の並木道が作る奥行き(パースペクティブ)を圧縮効果によってギュッと引き寄せました。新緑の柔らかい光が包み込む質感を、中望遠ならではの素直な描写で捉えることができました。
2. 標準域45mmで見せる、ストリートの空気感と大胆な傾き表現
続いて、同じロケーションのまま、一気にズームを広角側へと戻した45mmのカットです。

中望遠の2枚とは打って変わり、背景には都会のビル群や道路といったストリートの現実的なロケーションが適度に見え隠れし始めます。45mmという標準域は、モデルさんの存在感をしっかりと引き立てながらも、「どのような場所に佇んでいるのか」という場の空気感を過不足なく伝えるのに非常に適しています。
背景の並木や道路のラインが斜めに走ることで、カチッとした堅さが抜け、ストリートスナップ特有の「今、この瞬間を切り取った」という心地よい臨場感が生まれます。また、少し小首を傾げたもかさんの切なげな表情のニュアンスとも完璧にリンクし、写真全体にドラマチックな動きを与えることができました。
学校の校舎前カット|金網のシチュエーションで見せる焦点距離の自由度
次に向かったのは、ノスタルジックな雰囲気を残す学校の校舎前です。ツタの絡まる金網の前に佇むもかさんを被写体に撮影を行いました。
ここでも団体撮影という制限上、私の立ち位置はほぼ固定された状態でしたが、手元のズームリングをコントロールするだけで、これほどまでに多彩なカットを同じ場所から撮影することができます。
1. 広角端35mmが描く、シチュエーション全体の広がり
まずは、このレンズの最も広い画角である35mm(開放F2)で捉えた引きのカットです。

金網の横方向への広がり、地面に落ちる木漏れ日のコントラスト、そして背景に見える校舎の壁面まで、その場のシチュエーション全体をダイナミックに1枚に収めています。両手を広げてもかさんが見せてくれたお茶目なポージングの可愛らしさを、広角ならではの開放感とともにストレートに表現できました。
2. 50mm〜65mmの標準域が映し出す、自然な距離感とモデルの魅力
続いて、ズームリングを少し回して標準域(50mm〜65mm)に合わせました。

56mmへとわずかに寄ったカットでは、木漏れ日が透過するツタの葉を背景に、もかさんの豊かな表情に焦点を当てています。肉眼で見る感覚に最も近いとされる標準域のパースペクティブは、モデルさんの歪みのない端正なプロポーションと自然な佇まいをありのままに描写するのに非常に優れています。

51mmのカットでは、フェンスに少し寄りかかるもかさんの姿を撮影しました。フェンスの直線のラインに動きが加わり、ノスタルジックな街角の空気感がより引き立ちます。
さらにズームリングを少し望遠側へと回し、中望遠の手前である65mmで撮影したのがこちらの座りカットです。

金網の前にちょこんとしゃがみ込み、両手を頬に当てて斜め上を見上げるもかさんの非常にお茶目なポージングを捉えました。
65mmという画角は、背景にある遊具などのロケーション要素を適度に残しながらも、主役であるもかさんの存在感をしっかりと際立たせる絶妙な距離感を演出してくれます。
3. 71mmの中望遠域で切り取る、一歩踏み込んだエモーショナルな表情
最後に、さらにズームを伸ばして中望遠域の手前(71mm)まで寄ったカットです。

金網から少し身を乗り出すようにしてこちらを見つめる、もかさんの非常にエモーショナルな視線を捉えました。71mmという画角によって背景の金網の網目が適度に整理され、もかさんの瞳の透明感や表情のディテールが一際力強く浮かび上がってきます。
新緑の遊歩道での座りシーン|標準域が切り取る豊かな緑と笑顔
屋外撮影の締めくくりとして、遊歩道の脇に広がる鮮やかな緑を背景に、もかさんに腰を下ろしてもらった座りシーンのカットです。
ここでは35mmから46mmという、このレンズの広角端から標準域にかけての画角を使用しました。もかさんが座りポーズを作ってから、シャッターを切るごとに変化していくリアルな表情の移り変わりを、追っていきましょう。
46mmの標準域で捉える、穏やかで優しい微笑み
まずは、座りシーンのスタートとなった46mmでのカットです。

腕の中にすっぽりと顎を乗せたもかさんの、穏やかで優しい表情を捉えました。 右側手前に大きく配置したアイビーの葉が綺麗な前ボケとなり、奥へ向かって徐々にボケが深まっていくグラデーションも非常に滑らかです。広角側のF2近辺で撮るからこそ、背景を完全に消し去るのではなく、美しい新緑のロケーションを適度に残しながら被写体を優しく浮き上がらせることができます。
35mmの広角端で、ロケーションの奥行きをダイナミックに表現
続いて、その場から一気に広角端の35mmへとズームリングを戻し、引いて撮影したカットです。

優しい微笑みのカットから一転して、今度はもかさんが中央でちょこんと座り、こちらをじっと見つめる印象的な佇まいへと変化します。 35mmという広がりを持たせる画角によって、木漏れ日が斑点模様を作るタイルの道や、もかさんを包み込むように生い茂る背景の木々など、ロケーション全体の奥行き(パースペクティブ)を素直に表現できました。周囲の自然のダイナミックさと相まって、非常にストーリー性を感じる1枚に仕上がっています。
43mmでの大胆な傾きと、弾けるような満面の笑顔
最後に、再びズームリングをわずかに回して43mmに合わせ、もかさんの最高の笑顔を切り取ったカットです。

43mmという標準域に近い広角描写の中に、アイビーの葉のラインが斜めに走ることで、写真全体に心地よい動き(リズム)が生まれます。もかさんの弾けるような満面の笑顔のニュアンスとも完璧にリンクし最高に元気をもらえる作例となりました。
まとめ|限られた時間で最高の撮れ高を撮影できる選択肢
質量約1,165gというずっしりとした重みは、確かに持ち出すのを躊躇させるかもしれません。しかし、今回のような立ち位置が制限される撮影会においては、その重さというデメリットを完全に相殺するほどの圧倒的なメリットをもたらしてくれました。
今回のフィールドワークで改めて明確になった、このレンズの本質的な価値は以下の通りです。
- シャッターチャンスを逃さないフットワーク: 35mmの広角から150mmの望遠まで、レンズ交換の手間を一切挟まずに手元のリング操作だけで完結するため、モデルさんの細やかな表情の変化や一瞬の目線を確実に捉え続けることができます。
- 単焦点レンズに匹敵する空間表現: 広角側で見せる素直なロケーション描写から、中望遠〜望遠端150mmが魅せる強烈な圧縮効果と滑らかなボケ味まで、1本で何本分もの単焦点レンズの役割を高いクオリティでこなしてくれます。

また、今回の撮影をとても温かい雰囲気に包んでくれたのは、モデルのもかさんが持つ、周囲を自然と笑顔にする人懐っこいキャラクターのおかげです。
彼女がくれた地元のお菓子と細やかな気配りによって、団体撮影という少し緊張感のある現場がフッと和み、この大口径ズームレンズの魅力を存分に引き出した瑞々しい表情の作例をたくさん撮影することができました。
機材としての万能性と、被写体の個性が噛み合った今回の撮影。 立ち位置に縛られず、手元のズームで空間をコントロールできるこの快適性は、一度体験するとポートレート撮影の基準がガラリと変わるはずです。
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