素材の限界に挑み、新たな音響体験を追求したのがKENWOODのフラッグシップモデル「GLASS Core Pro KH-CRZ100T」です。

KENWOOD GLASS Core Proのパッケージ外観
本機は「新開発ガラス振動板」と高域専用「MEMSドライバー」をバイアンプで鳴らし切るという、物理特性にすべてを注ぎ込んだ意欲作です。単なる音を聴くためのツールにとどまらず、新しいオーディオ技術の境地を体験できるフラッグシップに仕上がっています。

KENWOOD GLASS Core Proのパッケージ外観
充電ケースや充電用のUSBケーブル、取扱説明書に加え、サイズの異なるイヤーピースが丁寧に個装されて同梱されています。
自分の耳に合ったサイズを細かく選べる配慮がなされており、開封直後から最適なフィット感へ調整できる構成です。

KENWOOD専用アプリでのファームウェアアップデート画面とイヤホン本体
レビューを実施する前に、専用アプリ経由でしっかりと最新のファームウェアへと更新を済ませました。
イヤホンが持つ本来の性能を正確に確かめるためにも、ソフトウェアを常に最新の状態へアップデートした上で検証を進めていきます。
ガラス振動板を想起させるクリアパーツと無骨なメカニカル造形
本機を語る上で外せないのが、透明感とメカニカルな質感を融合させたデザインです。 充電ケースはスライド開閉式を採用しており、上蓋にはガラスを思わせる深みのある鏡面光沢仕上げが施されています。

スライド開閉式充電ケースを開けた状態の内部
ケースの蓋を開けると、イヤホン本体のスティック部分にもクリアパネルが美しく配置されています。KENWOODのロゴが内部に浮かび上がるような造形は、精密機械らしさを感じさせる仕上がりです。

KENWOODロゴが刻印されたイヤホン本体のスティック部分
装着感については、新開発のリキッドシリコンイヤーピースが耳穴に吸い付くようにフィットします。耳介全体で面として支える形状になっているため、スティック形状でありながら耳への収まりは良好です。
また、本機の操作ボタンには一般的なタッチセンサーではなく、物理ボタンが採用されています。スティックの側面を摘まんでカチッと押し込む方式のため、装着位置を直す際の不意な誤動作を防ぐことができます。冬場の手袋着用時やランニング中などでも確実に操作したい人にとっては、大きなメリットになります。

イヤホン単体実測重量

ケース+イヤホン総重量実測
| 項目 | カタログ仕様値 | 実測値 |
|---|---|---|
| イヤホン質量(片側) | 約 6.7 g | 6.81 g |
| 全体総重量 (ケース+イヤホン左右) |
約 71.8 g | 71.89 g |
精密電子天秤による測定の結果、GLASS Core Proのイヤホン本体(片側)の重量は6.81g(公称値:約6.7g)でした。
イヤホン左右とケースを合わせた実測の全体総重量は71.89gとなり、カタログ仕様値の「約71.8g」に対して、トータルで0.09g重いという結果になります。
公称値をわずかに上回る数値が出ていますが、その差は全体でも1%未満(約0.13%)と極めて微小。測定環境やイヤーピース装着状態による誤差の範囲内と言えます。10mmガラス振動板やMEMSドライバー、専用アンプ回路など、音質のために贅沢なパーツを凝縮している本機において、仕様通りの密度がしっかりと詰まっている確固たる証拠です。
使い勝手を両立したLEDインジケーター
本機はガラス調の質感やドライバー構成といった見どころが目立ちますが、日々の使い勝手にもしっかりと配慮されています。

充電ケース手前の4段階LEDインジケーターと内部ライト
特に優れたメリットが、ケースを開けた際にバッテリー残量がLEDインジケーターで直感的に把握できる点です。ケース手前に4段階のドットLEDが配置されているほか、イヤホン収納スペースの内部にも青白く光るインジケーターを備えており、充電状態や収納時の通電がひと目で確認できます。目立たない部分ですが、単なる見た目のインパクトに逃げず、日常ツールとしての実用性をスマートに両立させている設計には好感が持てます。

充電ケース背面のUSB Type-C充電ポート
ケース背面には汎用性の高いUSB Type-Cポートを備えており、デスク周りや外出先でもストレスなく給電が可能です。
ノイズキャンセリング(ANC)性能は非常に優秀です。空調の低い唸り声や電車の走行音など、日常の暗騒音をしっかり抑え込み、静かな空間をしっかりと作り出してくれます。ソニーが到達した物理的限界の静寂にはわずかに及びませんが、実用面で不満を感じる場面はほとんどありません。またマイク性能についても、不自然なデジタル加工感が少なく、バランスの良いクリアな音声を届けてくれます。
このイヤホンの個性|ガラスの鼓動が描く新機軸のサウンド
本機のアイデンティティは、完全ワイヤレスイヤホンとして業界初となる「ガラス振動板」を搭載した点にあります。

Kenwood公式サイト KENWOOD ガラス振動板
オーディオにおけるドライバーの振動板素材は、カーボン、グラフェン、チタン、ベリリウム、そして木材(ウッド)にいたるまで、各ブランドが理想の音響特性を求めて研究を重ねてきた歴史があります。 そうした中で、今年2026年に創業80周年を迎えたケンウッドが選んだ答えが「ガラス」でした。

Kenwood公式サイト 業界初 ガラスの振動板 構造図
スピーカーやイヤホンの振動板には、「高い剛性」「速い伝搬速度」、そして余分な響きを残さない「適度な内部損失」という、相反する物理特性が求められます。 ガラス素材は、音の立ち上がりを鋭くする伝搬速度と、歪みを極限まで抑える圧倒的な剛性を高次元で両立できる素材です。不要な共振を徹底的に抑え込み、微細な信号を濁りなくストレートに耳へと届けるポテンシャルを秘めています。

Kenwood公式サイト 新開発 リキッドシリコンイヤーピース
ピュアな音響を支える土台として、新開発の「リキッドシリコンイヤーピース」が採用されています。液状シリコン素材ならではの柔軟性と適度なグリップ力により、耳穴の形状に合わせて隙間なく密閉。音抜けを防ぎつつ、長時間の装着でも圧迫感を抑える工夫が施されています。 さらに、高性能Bluetooth ICとMEMSマイクを組み合わせたアクティブノイズキャンセリングを投入。周囲の騒音レベルに応じて効き目を自動調整する「アダプティブモード」や「ウインドカット機能」を備え、ガラスの繊細な響きに没入するための静寂なリスニング環境を整えています。

Kenwood公式サイト 世界最高クラス ノイズキャンセリング
このノイズキャンセリング性能を、現在市場の絶対王者であるソニー「WF-1000XM6」と比較してみました。 率直に言って、両者の遮音性能は思った以上に僅差です。低周波の空調ノイズや電車の走行音といった重低音の消音力に関しては、ソニーと比べても大差がないレベルに達しており、KENWOODの静寂の作り込みの高さには驚かされました。 ただし、周囲の人の声や突発的な金属音といった「高音域の遮音」に目を向けると、密閉性と吸音性に優れるウレタン製アイソレーションイヤーピースを採用しているソニーに軍配が上がります。シリコン素材とウレタン素材の物理特性の差が、高域の遮音性においてわずかなアドバンテージとして現れる印象です。
一方で、日常使いの中で気になったのが、歩行時に足を踏み出すたびに耳へ響く「ゴロゴロ」「ドンドン」という着地音(体内振動音)です。 KENWOODはリキッドシリコンによる密着度が高い反面、歩行時の振動が逃げ場を失い、耳の中にダイレクトに響いてしまいます。対するソニーは筐体に通気口(ベント構造)を設けて空気圧や振動を外へ逃がす設計がなされているため、歩行時でも不快な足音が気になりません。静止した室内で聴く分には問題ありませんが、移動しながら使う頻度が高い方にとっては、この歩行時の快適性の差は意識しておきたいポイントです。

Kenwood公式サイト K2テクノロジー 高音質化の仕組み
加えて、JVCケンウッド独自の高音質化技術「K2テクノロジー」も搭載。CD音源やストリーミングサービスなどの非ハイレゾ伝送(AACやSBC)時であっても、圧縮によって失われた高音域成分をハイレゾ相当まで補正して復元してくれます。
素材の物理特性からデジタル処理にいたるまで、80周年の節目にふさわしい贅沢な技術を凝縮させた設計です。 しかし、かつてのシングルBA型名機「XBA-100」のような、金属的で突き抜けるきらびやかな高音を期待して聴くと、実際の出音は驚くほどフラットで無難に感じられます。素材の先入観だけで聴くと肩透かしを覚えるほど整えられたバランスであり、この「前評判と実際の鳴り方のギャップ」こそが本機を深く知る上での重要な鍵になってきます。
オーディオファンに向けた詳細なアプリ制御
KENWOOD GLASS Core Proは、専用アプリ「KENWOOD Headphones」によるデジタル制御の領域においても、マニアに向けた細かなカスタマイズ機能が用意されています。 一見するとシンプルな画面構成ですが、設定項目を深く掘り下げていくと、ハードウェアの性能を最大限に引き出すためのシステムが解放されます。

アプリトップ画面|ボリューム・接続状態
トップ画面では、左右イヤホンおよびケースのバッテリー残量、現在の接続コーデック、取扱説明書の閲覧やファームウェア更新へ素早くアクセスできます。さらに音楽・通話・タッチ&トークそれぞれの音量を個別にスライダーで微調整できる設計です。

NC・外音取り込み詳細設定
ノイズキャンセリング設定では、周囲の騒音レベルに合わせて効き目を自動調整する「アダプティブモード」や、風の強い屋外で重宝する「ウインドカット」、そしてスマホとの通信を切断して遮音だけに集中できる「耳栓モード」まで網羅されています。
聴力特性に合わせて化ける「パーソナライズサウンド」

音質設定|パーソナライズ・K2・サウンドモード
本機は箱出しの初期状態では低域が控えめで高域が硬く聴こえやすい傾向があります。しかし、耳の音響特性を測定する「パーソナライズ測定」を実行することで、全体のバランスが自然に整い、低域の芯と高域の滑らかさが引き出されます。本機の真価を発揮させるためには必須の設定です。 また、この画面から「空間オーディオ」や「K2テクノロジー」のオンオフ、各種プリセットおよびカスタムEQの切り替えが可能です。

サウンドモード切替設定・接続機器管理
本体操作で切り替えるサウンドモードの候補をあらかじめ絞り込めるほか、マルチポイント接続中の機器確認や切り替えもスムーズに行えます。
実用性を高める接続設定とイヤーピース装着テスト

基本設定|装着テスト・コーデック・遅延抑制
設定メニューでは、密閉度をチェックできる「イヤーピース装着テスト」をはじめ、LDACとAAC/SBCの切り替え、「低遅延モード」「接続安定モード」の選択が可能です。さらに、アナウンス音量の調整や装着センサーのオンオフなど、日々の使い勝手に直結する項目が整然と並んでいます。

イヤホンを探す機能
万が一の紛失時にイヤホンから音を鳴らして位置を特定できる「イヤホンを鳴らす」機能も備えており、日々の安心感を高めてくれます。
圧倒的なカスタマイズ性を誇る「物理ボタン操作設定」

操作キー設定|両耳・音楽再生時
本機最大の強みの一つが、物理ボタンへのコマンド割り当ての自由度の高さです。1回クリックから最大5回連続クリック、さらに「長押し」「短押し+長押し」にいたるまで、左右それぞれに独立した機能を割り振ることができます。

操作キー設定|片耳・音楽再生時

操作キー設定|両耳・通話時

操作キー設定|片耳・通話時
音楽再生時だけでなく、通話時、さらには片耳使用時専用の割り当て画面まで独立して用意されています。タッチセンサーにありがちな誤動作を物理ボタンで防ぎつつ、手元で自由自在に指示を出せる操作体系は、実用面において非常に大きなメリットです。
80年代洋楽バラード&美メロ名曲10選
今回の音質テストでは、機械的な測定音源に加えて、実際の楽曲における空間表現や高域の伸びを確かめるため、当ブログで厳選した80年代洋楽バラードのプレイリストを試聴音源として採用しました。
流麗なピアノのタッチや澄み渡るハイトーンボーカル、緻密に重ねられたシンセサイザーのレイヤーなど、繊細な音の立ち上がりと消え際の余韻をじっくり見極めるのに最適な楽曲ばかりです。
本機が搭載する業界初のガラス振動板特有の高音がどのように響くのか、その硬質さや透明感を存分に検証できるよう、アコースティックピアノやエレピが印象的な楽曲を多めに選定しています。
作業用BGMとしても思考を研ぎ澄ましてくれる名曲群ですので、気になる方はぜひこちらのプレイリストもチェックしてみてください。

世界基準のテスト音源を用いた厳密な音質検証
音質テストでは、主観的な感想だけで終わらせないために、オーディオ機器の検証用として世界的な権威を持つ音響テストサイト「AudioCheck.net」の正確なデジタル音源を採用しています。

YouTubeなどの動画サイトにあるテスト音源とは異なり、データの圧縮による劣化やカットが一切ない純粋な音声シグナルを使用できるため、イヤホンが持つ本来のポテンシャルを100%正確に測定することが可能です。
機材本来のポテンシャルを揃えて確かめるため、設定可能な限り「音質優先」に固定しています。接続コーデックは最高品位の「LDAC(990kbps)」、イコライザーやサウンドモードは補正のない「FLAT」、独自の音響効果(空間オーディオや各種強調エフェクト)はすべてオフに設定し、純粋なドライバー自体の素の出音に注目。
この世界水準のテスト音源を用いた同一条件での周波数テストや定位診断を実施し、横並びでグラフ化して実力を確認。スペックシートの数字だけでは見えてこない各機種の真実のサウンドを、エンジニアの目線で評価していきます。
音質検証|音場と解像度
世界基準の検証サイト「AudioCheck.net」を用いたテストと、詳細な音質スコア表(総合28.5点)は以下の通りです。

スコアを見ての通り、音質面における基礎能力は極めて高く、ハイエンドにふさわしい数値を記録しています。
特筆すべきは「定位:5」「分解能:5」「レスポンス:5」の3つの満点です。ガラス振動板ならではの立ち上がりの速さとMEMSドライバーの追従性により、音の輪郭が曖昧にならず、音の発生源がピタリと定まります。微細な音も濁らずに拾い上げる分解能の高さと、素早い音のキレは本機の明確な強みです。
さらに「バランス:4.5」「空間の広さ:4.5」「音域:4.5」と、各項目において高い水準で整えられています。周波数テストでは16,000Hz付近までしっかり鳴らし切るレンジの広さを備えており、全域にわたってクセのないフラットで正確な出音を堪能できます。
まとめ|GLASS Core Pro 総合チャート
すべての項目を統合した総合チャートが、本機のキャラクターを明確に物語っています。

総合スコアは27.1点。
特筆すべきは「機能性:5.0」の満点です。誤操作を根本から排除する確実な物理ボタンと、コマンドを細部まで割り振れるアプリの自由度は群を抜いています。音質(4.8)やノイズキャンセリング(4.8)についても高い完成度を誇り、フラッグシップとしてのポテンシャルは十分に備えています。
一方で、大柄なケースや耳からの出っ張り感、傷が目立ちやすい鏡面仕上げといった携帯性・外観の面で「デザイン:3.8」となり、歩行時の体内振動音の抜けやすさも含めて「装着感:4.4」に落ち着きました。
日常のシームレスな使い勝手や音楽的な没入感で盤石の強さを見せるソニー「WF-1000XM6」、そして工芸美と温かみある響きで唯一無二の世界観を築いたビクター「WOOD master」に対し、素材のロマンとハードウェア制御の自由度で勝負する本格派のイヤホンです。
当ブログでは、現在の完全ワイヤレス市場を牽引する主要フラッグシップ5機種(SONY WF-1000XM6、Victor WOOD master、BOSE QC Ultra Earbuds 2、Apple AirPods Pro 3、Technics EAH-AZ100)を同一環境で徹底的に使い込み、音質・ノイズキャンセリング・マイク性能・携帯性を横並びで比較検証したまとめ記事も公開しています。
絶対王者のソニー、工芸美と温かみある響きを極めたビクターなど、各メーカーの設計思想の違いや選び方を詳しく知りたい方は、ぜひこちらの比較記事も参考にしてみてください。

コラム|イヤホンに「エージング(慣らし運転)」は必要なのか?
世間ではよく「100時間のエージングで化ける」といったオーディオ特有のオカルト論が語られますが、工業製品としての道具の本質、そして世界トップクラスのマスタリングエンジニアたちの思想を紐解けば、その前提がいかに不自然であるかが浮き彫りになります。
私が熱心に行っていたエージングを完全にやめた理由と、音楽を純粋に楽しむための本質について別記事で詳しく語っています。
▼ イヤホンのエージングという幻想。道具としての本質




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