ニコンのZマウントが展開する「S-Line」シリーズ。一般的には「普通の単焦点」と侮られがちなクラスですが、このレンズを実際に手にしてファインダーを覗いた瞬間、その認識は良い意味で完全に裏切られます。
今回は、ポートレートからスナップまで、日々の撮影のストレスを引き算してくれる名作「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」の外観やビルドクオリティについてフラットにお伝えします。

余計な装飾を一切排除したマットブラックの金属筐体は、触れるだけでその剛性の高さと精密感が指先から伝わってきます。
配置されているのは「NIKKOR S」のバッジと、フォーカスモード切り替えスイッチ(A/M)のみという極めてシンプルな構成。この割り切ったミニマリズムが、撮影道具としての信頼感を際立たせています。

実際に手に持ってみると金属特有のヒンヤリ感。そして驚くほどしっくりと右手に収まり、大きすぎず重すぎない絶妙なボリューム感です。
太すぎない鏡筒はカメラを構えた際に左手でホールドしやすく、長時間のスナップやポートレート現場でも手首への負荷がほとんどありません。コントロールリングは適度なトルク感があり、直感的な微調整が可能です。

レンズの顔とも言える前玉を覗き込むと、62mm のフィルター径の奥に美しく澄んだ光学系が姿を現します。この奥に秘められた高い光学性能が、あのシャープなピント面と滑らかなボケ味を生み出していると思うと、それだけで外へ持ち出したいという欲が激しく刺激されます。
スペック表の数値だけでは見えてこない、この「触れているだけで心地よい」と感じさせる精密な作り込みこそが、他社の高級機を相手にしても揺るがない、ニコンならではの大きなメリットだと感じます。

今回の撮影の舞台は、情緒ある雰囲気が残る名古屋市瑞穂区の下坂町の路地と喫茶ミムロウ。菜穂さんを被写体に迎え、このレンズがどのような描写を見せてくれたのか、具体的な作例を交えてディテールを深掘りしていきます。
昨今、物価上昇に伴い、機材は年々価格が高騰しています。いろんなレンズを試してみたいけど、なかなか買えないというのが実情ではないでしょうか。
それは私も含めて同じです。
そこで登場するのがレンタルサービスです。きっとあなたの使ってみたい機材が下記のレンタルサービスにあるはずです。是非チェックしてみてください。
レンズ構成とMTF特性曲線

NIKKOR Z 35mm f/1.8 Sのレンズ構成を確認すると、9群11枚という単焦点レンズとしては非常に贅沢な設計がなされています。 その中には、色にじみを効果的に抑えるEDレンズが2枚、そして球面収差や歪みを補正する非球面レンズが3枚も組み込まれています。
ニコンのZマウントが持つ大口径・ショートフランジバックという光学的な強みを最大限に活かし、レンズ周辺部まで光を真っ直ぐ届ける設計思想が特徴です。 また、複数のAF駆動ユニットを連携させてピント合わせを行う「マルチフォーカス方式」を採用しているため、近距離から遠距離まで収差の発生を最小限に抑えることができます。 スナップやポートレートなど、被写体との距離が頻繁に変わる撮影においても、設定やピントのズレによるストレスを感じることなく、常に安定した高画質を得られるのが大きなメリットです。

MTF特性曲線を見ると、このレンズが「S-Line」というプレミアムな称号にふさわしい圧倒的な基本性能を備えていることが一目で分かります。
コントラストの指標となる10本/mmの曲線(赤い線)は、画面の中心から周辺部に至るまで「1.0」に近い極めて高い位置をほぼフラットに維持しています。 これにより、絞り開放のf/1.8という明るさから、濁りのない非常にヌケの良いクリアなメリハリを持った画像が得られます。
さらに注目すべきは、解像力の指標となる30本/mmの曲線(青い線)の高さです。 中央部で0.8を超える高い数値を示しているだけでなく、画面の端近くまで大きく落ち込むことなく安定して推移しています。 中央の被写体はもちろん、構図の隅に配置したディテールまで髪の毛一本一本を緻密に描き切るため、トリミングを行う際の手間や、周辺の画質低下を心配するストレスがありません。
サジタル方向(実線)とメリディオナル方向(破線)の曲線が驚くほど近く重なり合っている点も見逃せません。 これは非点収差やサジタルコマフレアが徹底的に排除されている証拠であり、夜景の点光源をにじみなく捉えられるだけでなく、背景のボケ味もざわつきのない非常に滑らかで美しい仕上がりになります。
高い解像感と素直なボケ味がシームレスに調和しているため、撮影後のレタッチ作業の手間を大幅に軽減し、撮って出しの段階で完成度の高い作品を仕上げられます。 コストパフォーマンスの枠を超え、所有する喜びと確実なアウトプットを高い次元で両立してくれる、非常に信頼性の高い一本です。
35mmのパースを活かした全身から、一瞬で50mmの世界へ
下坂町の情緒ある路地でのポートレート撮影。35mmという画角の最大の強みは、背景の街並みの雰囲気を適度に残しながら、モデルの全身を美しく切り取れる点にあります。

デフォルトの「FXフォーマット(36×24)」で引いて撮影すると、奥行きのあるパース感が生まれ、月野さんのスタイルの良さと路地の空気感が綺麗に調和します。
しかし、撮影のテンポが上がってくると「同じ立ち位置のまま、もう少し寄って表情を引き立たせたい」と思う瞬間が必ず訪れます。通常ならここでレンズを交換するか一歩前に近づく必要がありますが、35mmという画角は広角よりの為、被写体に近づくほど、四隅へ流れる可能性があります。
そこで抜群の威力を発揮するのが、Z5IIに搭載されている「撮像範囲設定」の機能です。

メニューからデフォルトのFXフォーマットを「DXフォーマット(24×16)」へとワンタッチで変更。すると、焦点距離が約1.5倍にクロップされ、カメラマンが動くことなく一瞬であたかも「50mmの標準単焦点レンズ」へと切り替わります。

ご覧の通り、一歩も近づいていないにもかかわらず、月野さんの魅力的な表情にグッと寄った印象的なポートレートへと早変わりします。

1本の軽量な単焦点レンズしか付けていないはずなのに、手元だけの操作で「広角気味の35mm」と「王道の50mm」の2本を瞬時に使い分けているような感覚。この機動性の高さこそ、撮影現場でのストレスを徹底的に引き算し、モデルさんとの楽しい空間づくりに集中できるZ5IIならではの大きなメリットです。
壁面のアートを活かし、アンニュイな世界
路地を進むと、すりガラスの壁面に描かれたハートマークと、風船を見上げる女の子のアンニュイなグラフィックアートを見つけました。こうしたストリートの面白い背景に出会ったときこそ、35mmの画角とZ5IIのクロップ機能の組み合わせが真価を発揮します。

まずはデフォルトの35mm(FXフォーマット)で、壁面のイラスト全体と菜穂さんの全身を大きく捉えます。周辺のコンクリートの質感まで適度に画面に写し込むことで、ストリートポートレートならではの、どこか物語性を感じさせる退廃的でエモーショナルな1枚に仕上がります。
ここから、一歩も動かずに、カメラ側の操作だけで50mm相当(DXフォーマット)へシフト。

菜穂さんのクローズアップ、あるいは髪に触れる繊細な仕草へと視線をダイレクトに誘導します。50mm相当ならではの歪みのない素直な描写性能はそのままに、標準レンズ特有の落ち着いたポートレートへと一瞬で表情を変えてくれます。

レンズを何本も持ち歩く手間や、画角を変えるたびに立ち位置を前後するストレスが一切ないため、菜穂さんが見せてくれる一瞬のアンニュイな表情や空気感を、1秒も逃さずにテンポよく切り取り続けることができます。
アジサイが魅せる素直で上質なボケ味
ストリートをさらに進むと、鮮やかに咲き誇るアジサイを見つけました。季節感のある花をポートレートに組み込む際にも、Z5IIの機動性とNIKKOR Z 35mm f/1.8 Sの光学性能が素晴らしいコンビネーションを発揮してくれます。

この「FXからDXへのクロップ切り替え」を現場でさらに快適にしているのが、Z5IIのカスタムボタン割り当てです。カメラ前面のファンクションボタン等に「撮像範囲選択」をあらかじめ登録しておくことで、ファインダーから一切目を離さずに、指先一つの操作だけで35mmと50mm相当の世界を瞬時に行き来できるようになります。

アジサイの陰からそっとこちらを見つめる菜穂さんの表情。しゃがみ込んだ位置から少し高俯瞰気味に狙うなど、アングルを大胆に変えながらも、リズムを一切崩さずにテンポよくシャッターを切り続けられます。

そして特筆すべきは、このレンズが描き出す「ボケ味」の素晴らしさです。手前や背景に大きく写り込んだアジサイのボケ感に注目してください。二線ボケのようなザワつきが一切なく、輪郭が溶けていくように滑らかで非常に素直なボケ方をしています。
ピントが合っている菜穂さんの瞳の圧倒的なシャープさと、周囲の柔らかい空気感とのギャップが、ポートレートとしての完成度を格段に引き上げてくれます。

ボタン一つで2つの画角を使いこなせる手軽さと、どこまでも素直で美しいボケ味。この2つが揃うことで、現場での余計な手間やストレスが極限まで削ぎ落とされ、撮り手とモデルさんの心地よい熱量だけが写真に残り続けます。
レトロな看板が誘う街角スナップ。「喫茶ミムロウ」の前でこぼれる笑顔
下坂町の路地をさらに進むと、ひっそりと佇む趣深い喫茶店を見つけました。「店員が気まぐれな喫茶ミムロウ」と書かれた、どこか愛らしくてレトロな茶色の看板。

35mmを活かし、少し引きの構図からスタート。周囲のロケーションを広く写し込むことで、「旅先で見つけた素敵な街角」という情緒あふれるドキュメンタリーのような空気感を演出できます。

柱にそっと寄り添う菜穂さんの綺麗な立ち姿と、視線を外した仕草が引き立ちます。カメラを意識しすぎない自然体な瞬間にこぼれた、菜穂さんの本当に楽しそうな最高の笑顔を至近距離のように捉えることができました。

35mmならではの歪みのない素直な描写力をベースにしているからこそ、クロップしても画角の不自然さがなく、看板の文字から菜穂さんの生き生きとした表情まで、現場の温かい空気感がそのまま1枚に凝縮されることで、撮り手とモデルさんの距離感を縮め、最高の瞬間を引き出してくれる大きなメリットになります。
狭い室内でも広く残せる。35mmの画角が生きる「喫茶ミムロウ」の空間ポートレート

外での撮影を終え、ホット一息。先ほど見つけた「喫茶ミムロウ」の店内へ入りました。こうした限られたスペースの室内こそ、35mmという画角の強みが最も生きるシチュエーションです。50mmだと引ききれずにバストアップばかりになってしまう狭い席間でも、35mmならお店の雰囲気ごと広々と画面に収めることができます。

温かみのあるレンガ調の壁や情緒ある照明、そして木目が美しいテーブルの奥行き。これらを不自然な歪みなく、菜穂さんの佇まいと一緒に広く写し込むことができます。お店の空気感に包まれた、どこかホッとするような横顔がとても印象的です。
35mmの最短撮影距離の短さを活かせば、席を立つことなく、身を乗り出すようにして菜穂さんの視線へと迫れます。上質なカップに注がれたコーヒーの質感、そして腕を組んでこちらを見つめる菜穂さんの吸い込まれそうな瞳。
開放F1.8がもたらす浅い被写界深度によって、背景のパーテーションやライトが優しく溶け、主役がグッと引き立ちます。

コーヒーカップを持ち上げ、ふとした瞬間に見せてくれた菜穂さんの眩しい笑顔。
後ろに引けない喫茶店の座席という空間でありながら、圧迫感を与えることなく、これだけ広々と、そして臨場感たっぷりに現場の楽しさを切り取れるのは35mmならではの大きなメリットです。手狭な室内というストレスを一切感じさせず、お互いの呼吸が届く距離のまま、お店の魅力と菜穂さんの魅力を1枚に閉じ込めることができました。
室内ポートレートをさらに引き立てる「光のコントロール」
この35mmという絶妙な画角が持つポテンシャルを、手狭な屋内のロケーションでさらに活かしきるためのアプローチとして、「Nikon Z5II」に小型ストロボ「Godox iT32」を組み合わせた室内ポートレート撮影の検証を行いました。

レトロな喫茶店を舞台に、お店の美しい定常光を活かしたしっとりとした情緒と、ストロボをワイヤレス運用して柔らかな光を回したクリーンな透明感の違いを、ボタン一つでフラットに見比べられる構成にしています。
まとめ|撮影効率を上げる室内・スナップ撮影の最高の相棒
名古屋市瑞穂区の下坂町の路地から、レトロな「喫茶ミムロウ」の店内まで、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S1本で駆け抜けた今回のポートレート撮影。
実際に現場で使い込んで感じたのは、このレンズが単なる「普通の単焦点」という枠には到底収まらない、撮り手の五感を満たしてくれる極上の常用レンズだということです。
35mmならではの歪みのない素直な描写力と、前後の空間が溶けていくような柔らかく美しいボケ味。そして、Z5IIのクロップ機能(DXフォーマット選択)をカスタムボタンに割り当てることで実現した、一歩も動かずに35mmと50mm相当の世界をシームレスに行き来できる圧倒的な機動性。
これらが完璧に組み合わさることで、「レンズを交換する手間」や「画角を変えるためのレンズ交換の手間」が現場から極限まで引き算されます。

喫茶店のテーブルを挟んだ至近距離で、腕を組んでこちらをじっと見つめる菜穂さんの印象的な瞳。このような一瞬の繊細な空気感を、機材の存在を忘れてテンポよく切り取り続けられたことこそが、このレンズを選ぶ最大のメリットだと確信しています。
スペック表の数字だけでは決して分からない、撮っているその瞬間のモチベーションをどこまでも高めてくれるビルドクオリティと光学性能。NIKKOR Z 35mm f/1.8 Sは、あなたのカメラライフに「ノンストレスで最高の瞬間を量産する楽しさ」を確実にプラスしてくれる、極めてコストパフォーマンスの高い一本です。



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