デジタルカメラの性能が極限まで進化した現代だからこそ、あえて完璧すぎない描写を求めてオールドレンズやクラシック志向のレンズに注目が集まっています。
その筆頭とも言えるのが、フォクトレンダーの「NOKTON classic 35mm F1.4 II SC(シングルコート)」です。

クラシカルなレンズ構成がもたらす独特の柔らかなボケ味と、シングルコート特有の艶やかなフレア。このレンズでしか描けない、まるで記憶の1ページを切り取ったかのようなノスタルジックな空気感は、ポートレート撮影において唯一無二となります。
しかし、こうしたライカMマウントのMF(マニュアルフォーカス)レンズをポートレートの現場で使うとなると、「ピント合わせの手間」や「テンポの悪さ」がどうしても大きなストレスになりがちでした。特に動きのあるモデルさんを相手にする場合、ピントを合わせている間に最高の表情や瞬間を逃してしまうデメリットが生じます。

そこで撮影の効率を大きく高めるのがこちらの組み合わせです。ソニーの高画素機α7RIIIに、マニュアルフォーカスレンズをオートフォーカス化する魔法のマウントアダプター「TEACHART LM-EA9」を投入しました。
レンズ自体が持つどこか儚げでエモーショナルな描写特性はそのままに、最新のカメラの感覚で「パシャパシャとテンポよく」シャッターを切ることができるようになります。

MFレンズ特有のピント合わせのストレスを排除し、主役であるモデルさんの表情やロケーションの空気感を掴むことだけに100%集中できる。この快適性こそが、ポートレート撮影の現場に圧倒的な効率をもたらしてくれます。
今回は、この「クラシックの味」と「現代の機動性」を融合させたシステムで、鹿乃ばんびさんを撮影した作例とともに、本レンズの本当の魅力をフラットにレビューしていきます。
レンズ構成|歴史的設計をリファインした伝統のダブルガウス

フォクトレンダー NOKTON classic 35mm F1.4 II SC VMのレンズ構成を確認すると、中央の絞り羽根を挟んでほぼ対称にレンズを配置した、伝統的なダブルガウスタイプの変形構造を採用していることが分かります。
6群8枚というシンプルな光学系をベースにしながらも、中央部には色にじみを適切に抑える異常部分分散ガラスが1枚組み込まれています。 現代の超高性能レンズのようにあらゆる収差を完璧に排除するのではなく、オールドレンズ特有のクラシカルな味わいを意図的に残すための設計思想が特徴です。
また、本レンズはマルチコーティング(MC)ではなく、あえてシングルコーティング(SC)を施した仕様となっています。 これにより、逆光時のフレアやゴーストが適度に発生しやすくなり、撮影者が現場で空気感をコントロールする表現の幅を広げてくれます。
マニュアルフォーカス専用設計であるため、オートフォーカスレンズのような電子部品や駆動モーターを一切持たず、非常にコンパクトかつ軽量な金属鏡筒に仕上がっている点も大きなメリットです。 カメラバッグの隙間に収まるサイズ感は、持ち歩く際の重量によるストレスを大きく減らし、日々のスナップ撮影におけるフットワークを軽快にしてくれます。
本レンズにはメーカー公式のMTF曲線は開示されていませんが、このレンズの本質は数値上の解像力ではなく、絞り値のコントロールによって変化する描写特性にあります。
開放のF1.4では、画面周辺部に向かってなだらかな光量低下が発生し、ダブルガウス特有の柔らかくオールドレンズのようなボケ味を楽しむことができます。 中心部のピント面は実用的なシャープネスを保ちつつも、全体として優しく情緒的な表現が可能です。
一方で、F4からF5.6あたりまで絞り込むことで、画面周辺部に至るまでコントラストと解像力が大幅に向上し、現代のレンズに引けを取らないスッキリとしたメリハリのある描写へと一変します。 撮影環境や自分の表現意図に合わせて、1本のレンズで2つの異なるキャラクターをシームレスに使い分けられるのが最大のメリットです。
撮影後のレタッチで無理にオールドレンズ風の加工を施す手間を省き、撮って出しの段階で個性的な世界観を構築できるため、作品作りの効率を大きく高めてくれます。 手頃な予算でクラシカルな大口径表現を楽しみたい方にとって、確かなコストパフォーマンスと所有する満足感をもたらしてくれる優秀な選択肢です。
青空と赤のコントラスト|ノスタルジックな夏の記憶
今回ロケーションに選んだのは、アートの島としても名高い愛知県の「佐久島」です。夏らしさが溢れるこの場所で、本レンズの持ち味であるクラシカルな描写性能が最高な形で発揮されました。

35mmという絶妙な広がりを持つ標準画角だからこそ、ばんびさんの存在感をしっかりと芯に残しながら、佐久島の広大な景色をダイナミックに巻き込むことができます。

ここでの見どころは、なんと言っても色彩のコントラストです。
背景に広がるエモい夏らしい入道雲とどこまでも澄んだ青空の雰囲気に対し、ばんびさんが身にまとった鮮やかな赤のワンピースが非常に美しく映えています。

現代の高性能レンズにありがちな硬すぎる発色ではなく、どこか優しく、絵画のような情緒を纏ったトーンでこの強烈なコントラストを表現できるのは、まさにシングルコート(SC)仕様ならではのメリットです。

さらに、LM-EA9による高速なAF化システムのおかげで、風に吹かれてひらりと翻るワンピースの裾や、刻一刻と変わるばんびさんの自然な仕草をストレスなく捉え続けることが可能です。

カメラを近づけたクローズアップのカットでは、麦わら帽子の隙間から漏れる夏の強い光が、柔らかく溶けるような背景ボケへと綺麗にグラデーションしていきます。
周辺光量の低下(ヴィネット)も適度なスパイスとなり、四隅がほんのりと引き締まることで、自然と画面中央のばんびさんへと視線が誘導される仕組みになっています。

LM-EA9を導入することでピント合わせの手間やストレスは劇的に軽減され、ポートレート撮影の効率は間違いなく跳ね上がります。
とはいえ、やはり純正レンズの高速なAF性能のようにはいかず、撮影のテンポによってはこのように若干ピントが甘くなったり、わずかに前後にズレたりすることもあります。

しかし、このNOKTON classicというレンズにおいては、なぜか情緒あふれる写真として成立してしまうから不思議です。
ノスタルジックな夏の焦燥感を演出する独自の表現力へと変えてしまうからこそ出会える1枚を撮影できる点に、このシステムを使いこなす本当の愉しさがあります。
白が引き立てる主役の赤|アートに溶け込む立体感
白いステージの上にちょこんと座っていただいたシーンでは、開放F1.4による浅い被写界深度が絶妙な立体感を生み出しています。

どこまでもクリーンな「白」のステージが、ばんびさんの鮮やかな赤のワンピースと非常に相性がよく、画面全体がぐっと引き締まる絵作りを見せてくれます。

ピントを合わせたばんびさんの端正な表情はクリアに描き出しつつ、F1.4による背景がなだらかにボケていくため、視線が自然と主役に誘導されるのが分かります。
さらにロケーションを活かし、佐久島で大人気の白い階段のオブジェへ。

階段に腰掛け、スリットから覗く脚線美が美しいポートレートです。横位置の構図では、青い海と空の広がりの中に白い階段と赤のワンピースが浮かび上がり、まるで一本の映画のワンシーンのようなドラマチックな情緒を醸し出しています。

強い日差しの下での撮影ですが、シングルコート特有のどこか優しく光を孕む描写性能のおかげで、白飛びしがちな階段の質感も硬くなりすぎず、しっとりとしたノスタルジックなトーンに落ち着いています。
イーストハウスの白い箱|35mmの距離感で魅せる表情
佐久島のもう一つの象徴的なアート作品「イーストハウス」でのカットです。

ここでは35mmという画角の強みを最大限に活かし、四角い囲いのシチュエーションから徐々にばんびさんへと近づきながら、印象的な表情をクローズアップしていく流れで撮影しました。

引きのポジションでは、白い箱のような空間にすっぽりと収まるばんびさんの全身を捉え、アート建築の幾何学的なおもしろさを背景に組み込んでいます。
ここから一歩ずつ、被写体との距離を近づけていきます。

箱の奥行きを活かしたサイドからのアングルでは、トンネル効果のように奥へと視線が抜けていき、中央に座るばんびさんの美しさがさらに強調されます。

アイキャッチでもご紹介した満面の笑みを覗かせてくれた瞬間も、LM-EA9のおかげでテンポを崩さず確実に捉えることができました。
そして、さらにぐっとレンズを近づけたクローズアップのカットです。

35mmという広めの画角でありながら、ここまで被写体に迫ることで白い箱のシンメトリー構図と、ばんびさんの視線の強さを引き出すドラマチックな1枚に仕上がりました。
開放F1.4付近の非常に浅いピント面ですが、テンポよくシャッターを切る中でのわずかなピントの甘さすら、NOKTON特有のクラシカルな収差と相まって、夏の日の淡い記憶のようなエモい空気感へと昇華されています。
海岸沿いが織りなす背景|35mmのロケーション力
佐久島の美しい海岸沿いへとやってきました。ここでは、35mmという絶妙な標準ワイド画角の強みがこれ以上ないほど綺麗に活きています。

遮るもののない広大なロケーションにおいて、佐久島の穏やかな海、どこまでも広がる青い空、そして夏らしさを象徴する白い雲。この雄大な大自然のすべてを1枚の画面にバランスよく引き込みながら、主役を真っ直ぐに際立たせています。

その中心に立つ、麦わら帽子を手に持った赤いワンピース姿のばんびさん。自然のブルーと衣装のレッドが完璧な補色関係となり、息をのむほど映える美しい作品に仕上がりました。

横位置の引き構図では、周辺光量の低下が自然な視線誘導を生み出し、まるで絵葉書や映画のワンシーンのようなドラマチックな世界観を構築しています。これほど情報量が多いシチュエーションでありながら、すっきりと情報が整理されてるのは、本レンズが持つ引き算の描写力のおかげです。

強い直射日光が降り注ぐ厳しい環境ですが、シングルコート特有の艶やかで柔らかなトーンが、海面のキラキラとした反射や肌の質感をしっとりと美しくまとめてくれています。
まとめ|エモさを快適に持ち出す現代のClassicポートレート
現代のレンズが失いつつある、シングルコート特有の柔らかな光の溶け方や、少しのピントズレすら「味」に変えてしまう唯一無二の描写力。

佐久島の青い空と、赤いワンピースを着る鹿乃ばんびさんが完璧にシンクロしました。
ライカMマウントのMFレンズをポートレートで使うという、一見すると「手間の多そうな選択」ですが、LM-EA9でAF化することでそのデメリットは払拭されます。
「優等生な写真に少し飽きてしまった」「機動性を損なわずに、情緒あふれるエモいポートレートが撮りたい」
そんな風に感じているフォトグラファーにとって、この組み合わせは間違いなく撮影ライフを高めてくれる最高の選択肢になるはずです。ぜひ皆さんも、この「クラシックの味」と「現代の機動性」の融合を体験してみてください。
記事で紹介したTECHART LM-EA9は以下から価格確認できます。
記事で紹介したNOKTON classic 35mm F1.4 II SCは以下から価格確認できます。



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