今の時代、新しくカメラを買って「まず旧機種と並べて同じものを撮り比べ、パソコンの画面で等倍表示して隅々までノイズや色の出方をチェックする」なんてことをする人はほとんどいないと思います。
でも、私は15年前の20代のころから、限られた予算のなかで新しいカメラを手に入れるたびに、誰も見ないのにそんな泥臭い検証を一人で黙々と繰り返していました。
友人からは「お前は好きなことになると、とことんハマるところ凄いと思うよ。カメラならずっとカメラの事考えてる。でも撮り比べなんて、なんになるん(笑)」と言われていました。
また実家に帰省したときなどには、カメラを2台並べて親にこう言ってました。「机に全メーカーのカメラを並べて色々と触ってみたい(検証)。きっと楽しいだろうねぇ〜。」親は苦笑いでしたが、昔から本気でカメラが好きだったのです。
今思えば、それが私の機材レビューに対する原点であり、エンジニア気質な探究心の始まりだったのだと感じています。
当時、コンパクトカメラの世界には「CCDセンサーから裏面照射型CMOSセンサーへ」という、歴史的な大転換期が訪れていました。今回は、その過渡期に私が身をもって体験した、画質の変化と当時の違和感についてお話しします。

当時愛用していたCCDセンサー搭載のコンパクトカメラ「Panasonic DMC-FX66」
CCDが魅せた描写の艶
15年前の主力だったのが、CCDと呼ばれるセンサーです。当時の代表格として私が愛用していたのが、パナソニックの「DMC-FX66」でした。
このカメラには「1/2.33型 有効画素数1410万画素」のCCDセンサーが搭載されていました。今となっては小さなセンサーですが、日中の明るい場所で撮ったときの絵作りには、なんとも言えない「描写の艶」がありました。
光がしっかりと潤沢にある環境であれば、色の乗りが非常に瑞々しく、コントラストも自然で、空気感まで滑らかに表現してくれていたのです。私はこのCCDが吐き出す色表現がとにかく好きで、「これだからカメラで撮る楽しさがあるんだ」と満足していました。

手のひらに収まるサイズ感ながら、深い色乗りを見せてくれた

FX66で撮影。JPG撮って出し。山口県角島。
CCDが描き出す水面の生命感
言葉で「描写の艶」と言うのは簡単ですが、実際の写真を見ていただくのが一番分かりやすいと思います。こちらは、同じくCCDセンサーを搭載した名機「DMC-FX80」で私が撮影した風景です。

(DMC-FX80で撮影した、青空と広大な海に架かる美しい橋の風景)
注目していただきたいのは、画面の大部分を占めるこの「緑がかった深い青色」の海水の表現です。

(等倍に近い視点で見ると、波立つ水面のディテールと色の深みがより際立つ)
光を反射して複雑にうねる水面の質感が、潰れることなく実に滑らかに、そして瑞々しく定着しているのが分かります。明るい部分から影になっている深い色の部分まで、不自然な白飛びや不気味な黒つぶれを起こさず、非常に豊かな階調を持って色の乗りを維持しています。
初期の裏面CMOSセンサーで見られた、全体が灰色に沈んでしまうような「眠さ」はここには一切ありません。デジタルでありながら、どこか引き込まれるようなナマモノとしての美しさを感じさせてくれる描写力。これこそが、私が当時「やはり撮って出しの絵はCCDが良い」と結論づけていた、最大の理由です。
精密機械の中身への探究心

私は新しいカメラを手に入れると、等倍での画質チェックを繰り返すだけではどうしても満足できない性分でした。アナログ回路設計を学び電子工学を専攻していた為、純粋に電子回路がどうなっているのかを知りたかったのです。
「この小さなボディの内部は、一体どんな構造になっているんだろう」 「メーカーの技術者たちは、どんな思想でこの精密な基板やメカニズムを配置したのだろう」
そんな知りたがりなエンジニア魂がどうしても抑えきれなくなり、当時、愛用していたDMC-FX66を文字通り工具で「バラバラ」に完全分解してしまったことがあります。

(まずは外装のネジを外し、慎重に内部へとアクセスしていく)

(液晶パネルをめくると、細いフレキシブル基板と高密度に実装された電子部品が現れる)
一般的なユーザーからすれば「わざわざ壊すような真似を」と思われるかもしれませんが、私にとってはこれが最高にエキサイティングな研究室でした。

(メイン基板の全貌。パナソニックの集積技術がこの小さな面積に凝縮されている)

(沈胴式レンズユニットと基板側を綺麗に分離した状態)

(さらに細かくパーツを分解。極小のビスや金属カバーが整然と並ぶ)

(複雑に絡み合う電子回路のパターンは、眺めているだけでも美しさを感じる)
ピンセットと精密ドライバーを使い、慎重にパーツを1つずつ剥がしていくと、あのコンパクトな筐体の中に、寸分の無駄もなく光学ユニットと電子基板が噛み合っている様子が剥き出しになります。

(すべての部品をタオルの上に展開。コンデジ1台を構成するパーツの多さに圧倒される)

(レンズの奥に鎮座する、すべての光を受け止める極小のCCDセンサー)
取り出したレンズの最奥部には、前述したあの「艶やかな描写」を生み出す原点である、小さな小さなCCDセンサーが静かに収まっていました。
「これほど緻密なハードウェアの設計があるからこそ、あの美しい1枚が吐き出されるんだ」
この分解作業を経て、私はカメラという道具の「メカニズム」そのものに完全に魅了されました。表面的なスペックの数字を眺めるだけでなく、ハードウェアの構造からその道具の本質を理解したいというこの泥臭いスタンスこそが、現在の私の機材レビューにおける絶対的なベースになっています。
このあと綺麗にもとに戻して、動作確認まで完了しています。この趣味ともいえる探求心が、会社の実務で、リバースエンジニアリングとしての経験に活かせるとは思いもしませんでした・・・
裏面CMOSの衝撃と違和感
数年後次世代ともいえるソニーが開発した「Exmor R」という裏面照射型CMOSセンサーが黒船のように現れました。そのセンサーを引っ提げて登場したのが、薄型でスタイリッシュなソニーの「DSC-TX1」です。

革新的なセンサーを積んで登場したソニーの「DSC-TX1」
仕様を見ると「1/2.4型 有効画素数1020万画素」と、画素数こそ控えめでしたが、このセンサーの最大の武器は「暗所での圧倒的な強さ」でした。配線層をセンサーの裏側に配置することで効率よく光を取り込めるようになり、夜景や暗い室内でもノイズを劇的に抑えて明るく撮れるという、当時の常識を覆す性能を持っていました。

スライド式のカバーを開ければすぐに撮れる、メカとしても魅力的な1台だった
「これは凄い時代が来た」と思って手に入れ、さっそくいつものようにDMC-FX66と並べて撮り比べをしてみました。
限界まで近づけるマクロ性能の強み
画質のチューニングには当時の限界を感じていたものの、DSC-TX1というカメラの基本設計には、思わず唸ってしまうような素晴らしい機能性がしっかりと備わっていました。それが、レンズの先端からわずか1cmまで被写体に近づいて撮影ができるマクロ(拡大鏡)モードの搭載です。

実際に草むらで見つけたてんとう虫にカメラをぐっと近づけてシャッターを切ってみたのですが、この描写力には驚かされました。
小さなてんとう虫の硬質な羽の光沢や、そこについている細かな模様、さらには葉っぱの表面にある微細な脈の凹凸までが、肉眼で見る以上に鮮明にクローズアップされています。
背景は優しく滑らかにボケており、小さな被写体が中央にぐっと浮き出るような立体感のある写真に仕上がりました。これだけ寄れる性能があると、日常の足元にある何気ない世界がすべて特別な被写体に変わるような面白さがあります。
このように、薄型でポケットに収まるコンパクトなサイズ感を維持しながら、暗所性能の高さだけでなく、強力な近接撮影能力まで詰め込んでくるあたりは、さすがソニーの技術力の高さだと感心させられました。
夜景撮影での裏面CMOSの独壇場
暗い場所でのノイズの少なさや、夜景が手持ちでサクッと明るく撮れる性能には確かに度肝を抜かれました。

DSC-TX1で撮影した夜景。当時のコンデジとしては驚異的な暗所性能だった
しかし風景撮影では・・・

(日中の風景も一見するときれいに写っているように見えたが……)
しかし、パソコンの画面に2つのカメラのデータを並べて等倍で凝視したとき、私は猛烈な違和感を抱きました。
「なんだか、絵が全体的に灰色がかっていて眠い……」
確かにノイズは消えているのですが、コントラストが低く、CCDのカメラで感じられたような瑞々しい発色の「艶」が消え去り、どこかデジタルっぽくカサついた平板な絵作りに見えたのです。

試しに画像処理でコントラストを上げてみると、少しはCCDの雰囲気に近づきはしましたが、それでも「撮って出し」の素の描写力としては、明らかにCCDの方が美しいと感じていました。「ノイズを下げられても、基本の画質や表現力が落ちてしまったら本末転倒じゃないか」と、当時の私は本気で悩んでいました。
老舗キヤノンへの期待と現実
裏面照射型CMOSの技術そのものの癖なのか、それともメーカーの味付けのせいなのか。どうしても確かめたくなった私は、「カメラの老舗メーカーであるキヤノンなら、長年培った絵作りの技術でこのツヤのなさを綺麗にチューニングしてくれているはずだ」と期待を抱きました。
そうして購入したのが、キヤノンが満を持して投入した高感度モデル「IXY 30S」です。

老舗の絵作りに期待を込めて購入したキヤノン「IXY 30S」
このカメラも「1/2.3型 有効画素数約1000万画素」のCMOSセンサーを搭載し、F2.0という非常に明るいレンズを組み合わせた、まさに暗所特化型の贅沢な仕様でした。キヤノンの歴史あるカラーチューニングがあれば、あの裏面CMOS特有の眠い絵が克服されているに違いない。そう確信してシャッターを切りました。

マットな質感のボディに、明るい大口径レンズが映える仕様

IXY 30Sで遠くの鉄塔を撮影し、等倍での解像度や色の出方を何度もチェックした
結果がどうだったかと言いますと、驚くほどソニーのときとまったく同じ傾向の、コントラストが低くて眠い絵が出現しました。
これには思わず笑ってしまいました。どれだけ老舗メーカーが画像処理エンジンで頑張って味付けをしようとも、当時の初期型裏面CMOSセンサーという「素材そのものが持つ物理的な癖」だけは誤魔化せなかったわけです。
この比較検証を経て、当時の私はひとつの決断をしました。 「裏面照射型CMOSの画質が進化するまでは、しばらくこのタイプのカメラは買うのをやめよう」と。
時代の選択と、その先へ
しかし、個人のこだわりとは裏腹に、時代の流れは残酷でした。圧倒的な高感度性能、そして連写性能や動画処理スピードの速さを求めるデジタルカメラの進化において、CMOSセンサーへの移行は避けて通れない「合理的な選択」だったのです。気づけば、市場はCMOSセンサーを積んだカメラ一色になり、CCDの姿は消えていきました。
もちろん、技術の進歩は素晴らしく、それから長い時間が経つなかで、センサーの構造や画像処理エンジンの進化によって、当時の私が不満に思っていた「ツヤのなさ」や「コントラストの低さ」は見事に克服され、今のCMOSは低感度でも息をのむような美しい階調表現ができるようになっています。
ただ、この「初期裏面CMOSの限界」を身をもって体験したことで、私はコンパクトカメラの枠組みそのものに見切りをつけ、次なるステージへと進むことになります。それが、圧倒的な受光面積を持つ、ソニーのミラーレスカメラ「NEXシリーズ(APS-Cセンサー)」への移行でした。

小さなセンサーの限界と格闘し続けたからこそ、次に手にした大きなセンサーが魅せる「絵の余裕」に、私はこれまでにない衝撃を受けることになるのです。



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