ポートレート撮影において、50mm前後の「標準画角」は基本でありながら、最も奥が深い領域です。特にF1.2という圧倒的な明るさを持つ大口径レンズは、各メーカーが技術の粋を集めて開発するフラッグシップ的な存在ですが、「重く、大きく、高価である」という共通のハードルがありました。
そんな大口径レンズの常識を軽やかに塗り替える存在として登場したのが、今回レビューする RF45mm F1.2 STM です。

本レンズは、50mmよりもわずかに広い「45mm」という絶妙な画角を採用したキヤノンの最新光学系です。外観は非常にシンプルかつ洗練されており、鏡筒には確かなビルドクオリティを感じる金属パーツが採用されています。

美しいコーティングが施された前玉を覗き込むと、9枚の絞り羽根が美しい円形を形作っているのが見えます。F1.2という大きな光を取り込む大口径でありながら、フィルター径は扱いやすい67mmに抑えられています。

実際に手に取ってみると、その「軽さ」に誰もが驚くはずです。質量わずか約346g。片手にすっぽりと収まるサイズ感は、これまでのF1.2クラスの単焦点レンズとは一線を画しています。取り回しの良さは抜群で、長時間のポートレート撮影でもフットワークを削がれることがありません。
今回はこの機材を持ち出し、モデルのカワイマドカさんにご協力いただいて撮影を行いました。
この驚異的な軽さとF1.2の明るさが、実際のフィールドでどのような描写のメリットをもたらしてくれるのか。カワイマドカさんの瑞々しい作例とともに、フラットにそのポテンシャルを検証していきます。
昨今、物価上昇に伴い、機材は年々価格が高騰しています。いろんなレンズを試してみたいけど、なかなか買えないというのが実情ではないでしょうか。
それは私も含めて同じです。
そこで登場するのがレンタルサービスです。きっとあなたの使ってみたい機材が下記のレンタルサービスにあるはずです。是非チェックしてみてください。
レンズ構成とMTF特性曲線

CANON RF45mm F1.2 STMのレンズ構成を確認すると、中央の絞りを挟んで対称型にレンズを配置した、典型的なダブルガウスタイプの基本構造を持っていることが分かります。

この構造はオールドレンズの時代から長い歴史を持つ伝統的な設計であり、コストを抑えたSONY FE 50mm F1.8や、オールドレンズの特徴を生かしたFUJINON XF35mmF1.4 Rとも非常に よく似たアプローチです。
ダブルガウス構成をベースにすることで、開発コストや製造の手間を最小限に抑え、F1.2という極めて明るい大口径レンズでありながら驚くほど価格を低く抑えている点が、予算を抑えたいカメラマンにとって最大のメリットになります。 また、フォーカス方式にはこれら類似レンズと同様の「全群繰り出し方式」を採用しており、光学系全体を動かすことで撮影距離による収差の変動を抑え安定した画質を提供してくれます。

MTF特性曲線を確認すると、あらゆる収差を完璧に抑え込んだ現代の超高性能レンズとは異なり、製造コストを抑えようとする努力が、数値から読み取れます。
解像力の指標となる30本/mmの曲線(青い線)を見ると、中央部から少し離れると数値が低下する傾向にあり、画面全体の均一なシャープさを追求した設計ではないことが分かります。 しかし、ポートレート撮影において最も重要となる画面の中心部においては、しっかりと実用的な解像度を維持しています。 現代的なカリカリとした鋭さはないものの、肌のトーンを滑らかに描き出す、ポートレートに適した優しい解像感を得られるのが特徴です。
また、コントラストの指標となる10本/mmの曲線(黒い線)は、画面中央部から15mm付近の範囲まで0.8以上の実用的な数値を維持しており、絞り開放から被写体をすっきりと際立たせるメリハリは確保されています。 サジタル方向とメリディオナル方向の曲線の乖離も一定に抑えられているため、周辺部へ向けてなだらかにボケへと溶けていく、ダブルガウスならではの素直で美しいボケ味を楽しむことができます。
超高解像を謳う高額なレンズのような完璧さはありませんが、手頃な価格でF1.2の立体感あふれる世界を手に入れ、ポートレート表現を広げられるという点で、コストパフォーマンスの良さが際立つ一本です。
F1.2の立体感。青空と伝統建築を優しく溶かすボケ味の境界線
美しい木組みの伝統家屋が並ぶ「ドイツ バイエルン州の村」のエリア。開放感のある広々としたロケーションを活かし、F1.2という大口径ならではの背景のボケ感と立体感について検証しました。

少し引き気味の構図で、マドカさんの全身に近いシルエットを捉えた1枚です。 45mmという絶妙な画角により、右側にある大きな木組みの家屋から左奥へと続く街並み、そして広がる青空までをバランスよく画面に収めることができます。
特筆すべきは、これだけ引きの構図であるにもかかわらず、F1.2の浅い被写界深度によってマドカさんが背景からフワッと浮き上がっている点です。

マドカさんに少し近づき、バストアップからミディアムショットへと構図を切り替えたカットです。
ピントを合わせたマドカさんの髪の毛のディテールや瞳は非常にクリアに解像されていますが、そこから背景へと向かうボケの繋がりが極めて滑らかです。

背景にある伝統建築の窓辺の花や、奥にそびえる教会の尖塔、そして初夏の柔らかな青空と雲が、原型を優しく留めながらなだらかに溶けています。
伝統建築の彩りと、木漏れ日が織りなす美しい玉ボケの二面性
今度は手前の装飾と背景の光の入り方に注目してみましょう。ここでは、伝統的な民家の窓辺に飾られた鮮やかな花を活かしつつ、大口径レンズの醍醐味である「玉ボケ」の質感を検証しました。

手前にある黄色や青、ピンクの花々は、ピントの合っているマドカさんの位置から手前に向かって、非常に滑らかに大きな前ボケへと変化しています。

背景の右上あたりに、葉の隙間から漏れた光が玉となって浮かび上がっています。しかし、その輪郭にはわずかな縁取りがあり、周辺部に向かって形が変化していく様子が見て取れます。これは、かつての名玉に多く見られた「ダブルガウス型」の光学設計がもたらす、非常にクラシカルな特徴です。
現代の最新レンズが目指す「収差を極限まで抑えた均一な真円」とは対極にある、どこかザワつきを感じさせるこの描写は、撮り手によって好みがはっきりと分かれるポイントと言えるでしょう。

この背景に見られる、画面の中心から周辺部に向かってわずかにレモン型へと変化していく滑らかでありながらもどこか輪郭を残す描写は、まさにオールドレンズから続く「ダブルガウス型」の典型的な美しいキャラクターを現代風に洗練させたものと言えます。
ピント面のシャープな解像度を維持しながらも、クラシカルで温かみのある玉ボケを背景に忍ばせることができる点に、このレンズの唯一無二の面白さがあります。
イタリアの街並みを残すダブルガウスレンズ
次にご紹介するのは、独特なとんがり屋根の住宅が並ぶ「イタリア アルベロベッロの家」を背景にしたカットです。

F1.2という大きな開放値を持つ現代の最新レンズは、背景を完全に溶かして見えなくする(消し去る)方向で作られることが一般的です。しかし、このレンズが持つダブルガウス特有の描写は、一味違うメリットを撮影にもたらしてくれます。
アルベロベッロの象徴的な石造りの屋根を背に、斜め後ろを振り返るマドカさん。 F1.2でありながら、背景にある建物のユニークな輪郭がわずかに二重ボケを伴いながら残されているのが分かります。

ピントが合っているマドカさんの瞳や髪のシャープさに対して、背景の石段やイタリアの建造物のディテールは柔らかくボケつつも、その「形」をしっかりと認識できる絶妙なバランスを保っています。

このレンズの二重ボケ傾向を伴うクラシカルな描写は、「マドカさんを主役として立体的に際立たせる」ことと、「イタリアの異国情緒あふれる街並みの空気感をしっかり画面に残す」ことを完璧に両立させてくれます。
天然のレフ板を活かす。白い壁がもたらす極上の美肌トーンと立体感
アルベロベッロのエリアにおいて、もう一つ見逃せない撮影手法が、現地の白壁を「天然の大型レフ板」として活用することです。
屋外ポートレートでは太陽光の向きによって顔に強い影が出てしまいがちですが、周囲を囲む白い壁が外光を優しく拡散し、マドカさんの表情を遮る影を綺麗に打ち消してくれています。

左側にある手前の白壁に光が反射し、マドカさんの顔立ちへ均一に柔らかな光を届けているのが分かります。
これにより、F1.2の浅いピント面とも相まって、肌の質感が非常に瑞々しく、かつ透明感あふれるトーンで明るく描き出されています。

壁にそっと手を添え、視線を落とすマドカさん。 手前にある巨大な白壁は、ピント面から外れることで大きな「前ボケ」となり、画面の左側を大胆かつシンプルに覆っています。

この大きく白い前ボケが画面を引き締めるフレーム(額縁)の役割を果たし、中央で優しく照らされたマドカさんの存在感をさらに引き立てる効果を生んでいます。
特別な照明機材やレフ板をわざわざ広げずとも、ロケーションの特性を賢く見極めて味方に付けるだけで、大口径レンズのポテンシャルを引き出した極上のポートレートに仕上げることができました。
鮮やかな赤の再現性とナチュラルな肌色トーン
再び「ドイツ バイエルン州の村」のエリアに戻り、被写体へ近づくクローズアップ撮影を行いました。

このセクションでは、大口径レンズにとって最もシビアな検証となる「至近距離での描写力」、そして画面の大きなアクセントとなる「赤色」の再現性に注目。


大きな木組みの納屋や石畳が広がる、開放的なロケーションでのカットです。引き気味の構図から少しずつ距離を詰め、マドカさんの表情を浮き上がらせていきます。

地面に並ぶ花の鉢植えの横にそっとしゃがみ込んでもらったカットでは、手前にある花がF1.2の極浅いピント面によって、非常に大きな前ボケへと変化しています。

デジタルカメラのセンサーやレンズにおいて、「飽和」を起こしやすくディテールが潰れがちなのがこういった鮮烈な「赤」の表現ですが、このレンズは花びら一枚一枚の重なりや陰影を破綻させることなく、肉眼で見たままの深い赤を美しく定着させています。

画面右側に配した手前の赤い花は、F1.2という極浅い被写界深度によって原形を留めないほど大きな「色の塊」へと変化しています。同時に、マドカさんの背後に広がる背景も、ピント面から外れた瞬間に濁りのない柔らかなボケへと溶け込んでいきました。
クローズアップ撮影では、レンズの解像性能がシビアに問われますが、マドカさんの瞳やまつ毛の輪郭は極めてシャープに描き出されています。その一方で、前後の景色が圧倒的なボリュームのボケに変わることで、主役である彼女の存在感がより一層、ドラマチックに際立っています。
中望遠域で魅せるポートレート。もう一つの選択肢「RF135mm F1.8 」
標準単焦点レンズ「RF45mm F1.2 STM」がもたらす、被写体との自然な距離感とフットワークの軽さは、日常のスナップポートレートにおいて間違いなく最高の効率性を発揮してくれます。
しかし、もしあなたが「背景を限界まで整理し、被写体の美しさを極限まで際立たせた究極の1枚を残したい」と望むなら、その先にはさらに凄まじい光学の世界が待っています。
それが、ポートレートレンズの最高峰とも言われる中望遠の怪物、「RF135mm F1.8」です。
別記事では、同じくマドカさんをモデルに迎え、135mmという焦点距離が生み出す圧倒的な圧縮効果と、とろけるような大口径のボケ味を余すことなくレビューしています。
45mmの自然な描写とは一線を画す、被写体が背景から完全に独立して浮き上がるような異次元の立体感(個人の実感)を、ぜひこちらの検証レビューで体験してみてください。

まとめ|最新のRFマウントで味わう「懐かしくも新しい」世界
検証の最後に訪れたのは、可愛らしい雑貨やぬいぐるみが並ぶショーウィンドウの前です。

ガラス越しに中のディスプレイを覗き込むマドカさんの横顔。反射する光やガラスの質感が、マドカさんの柔らかな雰囲気と見事にマッチしており、どこか異国の絵本を眺めているような錯覚に陥ります。

このレンズを使っていて、ふとした瞬間に感じる「懐かしさ」。その正体は、やはり往年のオールドレンズを彷彿とさせるダブルガウス型の描写にあります。最新レンズが追い求めがちな「均一で無機質な高画質」とは一線を画し、画面の端々に宿るわずかな揺らぎや独特なボケ味が、ポートレートに情緒的な深みを与えてくれます。
特筆すべきは、キヤノンがこの「F1.2」という極めて明るいスペックを、価格コム現在価格6万円を切る驚異的なコストパフォーマンスでRFマウントに投入したことです。
本来、F1.2クラスの単焦点レンズは、プロ向けの重厚長大なモデルが多く、一般のユーザーにとっては予算的にも重量的にもハードルの高い存在でした。しかし、このRF45mm F1.2 STMは、約346gという軽さと手に取りやすい価格を実現しながら、現代の解像力とクラシカルな表現力を高い次元で両立させています。
「手軽に、かつ深くポートレートを楽しみたい」というユーザーにとって、このレンズはまさに「表現の幅を広げるための正解」の一つと言えるでしょう。



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