S660には、日常のドライブを安全に楽しむための緻密な電子制御が数多く備わっています。 普段の街乗りやワインディングではドライバーを危険から守ってくれる心強い味方ですが、サーキットを本格的に走るとなると話は別です。
車の真の限界を引き出し、純粋なマシンの挙動と対話するためには、あえてその安全マージンを自らの手で解き放つ必要があります。

そこで今回は、サーキット走行を見据えて知っておきたい電子制御の解除(メンテナンスモード)をはじめ、取扱説明書には載っていない実用的な隠しコマンドの手順をまとめました。
追加メーターなしで水温を確認する裏技なども含め、S660のポテンシャルを余すことなく味わうための設定手順を紹介します。
エアコンパネルで水温や各種数値を表示させる|自己診断モニターモード
追加メーターを装着していなくても、車載のエアコンパネル液晶を使ってエンジン水温や外気温、車速などのリアルタイムデータを確認できる機能です。 エアコンECUが車内ネットワークから取得している内部数値を直接呼び出す仕組みになっています。

モニターモードの起動手順
- エンジン停止状態で、エアコン操作パネルの「AUTO」ボタンと「内外気切り替え」ボタンを同時に長押しします。
- 同時押ししたまま、エンジンを始動します(またはスタートスイッチを2回押して電源ON状態にする)。
- エアコンの液晶画面に数字が表示され、自己診断モニターモードが立ち上がります。
表示項目の切り替え方法
画面が立ち上がったら、「MID」ボタンを押すごとに項目番号が切り替わります。 左側に表示される項目番号と、交互に表示される数値の対応関係は以下の通りです。
水温を確認したい場合は、「MID」ボタンを何度か押して「9」に合わせることで、現在の水温がデジタル数値で確認できます。 通常モードに戻す際は、エアコンのOFFボタンを押すか、一度車両の電源を切ることで復帰します。
補足|センターディスプレイ・Gathersナビ装着車なら画面上で常時確認可能
エアコンパネルを使った裏技を紹介しましたが、純正センターディスプレイやS660専用Gathersナビ(VXU-192SSiなど)を装着している車両であれば、隠しコマンドを使わなくても画面上でリアルタイムに水温を確認できます。

走行情報やスポーツ表示画面を呼び出すと、Gモニターやブレーキ圧、アクセル開度とともに、画面下部にデジタル数値で水温(℃)が常時表示されます。
ディスプレイ非装着車(オーディオレスなど)の場合はエアコンパネルの裏コマンドが役立ちますが、モニター付き車両に乗っている場合は、こちらの画面を活用するのが最も手軽で視認性にも優れています。
電子制御を100%カットする|メンテナンスモード(VSA解除)
知っておきたい3つの電子制御の役割|TCS・VSA・AHAの違い
メンテナンスモードでカットされる電子制御は、主に以下の3点です。 それぞれが担当している役割を知っておくと、解除したときに「なぜ挙動が激変するのか」がよく分かります。
このように、S660のハンドル右下にある「VSA OFFボタン」を長押ししただけではTCSが切れる程度で、実は横滑り抑制の一部やAHAによる旋回アシストが裏でしっかり残っています。 サーキット走行でこれらすべての電子介入をゼロにし、純粋な車のポテンシャルを引き出したい場合に使用するのが、次にご紹介する「メンテナンスモード」です。
メンテナンスモード時の注意点
このモードに入ると、以下の電子制御が無効化され、ペダルやステアリング操作がダイレクトにタイヤへ伝わります。
ミッドシップ特有の急激なスピン挙動を電子制御が抑え込んでくれなくなります。一般公道では決して使用せず、サーキットなどの安全が確保されたクローズドコース内でのみご活用ください。
エンジンを停止して再始動すれば、自動的に通常の制御ON状態へ戻ります。
メンテナンスモードの起動コマンド
エンジンを始動する
VSAボタンを長押し(点灯) → すぐに長押し(消灯)
VSAボタンを長押し(点灯) → すぐに長押し(消灯)
VSAボタンを長押し(点灯) → すぐに長押し(完了)

メンテナンスモードに移行したときのメーター表示
サーキットでの実戦比較|通常VSAオフとメンテナンスモードの挙動差
メンテナンスモードの手順が分かったところで、気になるのが「通常のVSA長押しオフと裏コマンドのメンテナンスモードで、サーキットでの走りはどう変わるのか」という点です。 実は、この2つのモードでは車のキャラクターが根本から変化します。
一番の決定打となるのが、アジャイルハンドリングアシスト(AHA)が残るか消えるかという点です。
通常VSAオフの特性|高い回頭性と安全マージン
ステアリングを切り込んだ瞬間からAHAがイン側のブレーキをつまんでくれるため、アンダーステアが出にくく、レールに乗ったようにノーズがスッとインに入ります。
万が一リヤが大きく流れすぎた際も、奥底に残っている横滑り制御が最終防衛ラインとして働くため、唐突な巻き込みスピンでクラッシュするリスクを大幅に減らせます。
ドライバーがブレーキを踏んでいないコーナリング中も車が自動でブレーキを使い続けるため、ブレーキパッドとフルードへの熱負荷が非常に大きく、周回を重ねるとフェードしやすくなります。
また、コーナー立ち上がりで意図的に姿勢を作って早く踏み込みたい場面でも、ブレーキの引きずりによってわずかな失速感が生じることがあります。
メンテナンスモードの特性|完全なダイレクト感と熱ダレの排除
旋回中の自動ブレーキ介入が一切なくなるため、車速を殺さずにコーナーを抜けられます。ブレーキパッドの異常発熱も防ぐことができます。
フロントへの荷重移動、リヤのトラクションのかかり方、スライドのきっかけ作りなど、入力した操作が100%ダイレクトに車の挙動へ反映されます。
AHAのアシストが消えるため、しっかりブレーキングでフロントに荷重を乗せてからターンインしないと、曲がらずに外へまっすぐ逃げていきます。
さらに、ミッドシップかつショートホイールベース特有の「限界を超えた瞬間の急激なスピン挙動」に対して、車側のアシストはゼロです。リヤが出た際のカウンターの初動がコンマ数秒遅れただけで、そのままスピンに至るシビアさがあります。
サーキットで安全にタイムを詰める|3段階のステップアップ手順
メンテナンスモードは魅力的な機能ですが、いきなり完全解除でアタックするのはリスクが伴います。 S660のMR特性を手の内でコントロールできるようになるためには、ドライバーの習熟度や足回りの仕様に合わせて段階を踏んでいくのがおすすめです。
最初は電子制御をすべて効かせた状態でコースインします。
コースのレイアウトやブレーキングポイントの把握、S660の車幅感覚を掴むことに集中するフェーズです。操作ミスやオーバースピードがあっても車側が姿勢をしっかり収めてくれるため、大きな安心感を持ってライン取りを学べます。
コースに慣れて立ち上がりのアクセルをしっかり開けられるようになったら、ボタン長押しでVSAを解除します。
トラクションコントロールの介入による立ち上がりのもたつきが消え、加速がスムーズになります。AHA(内輪ブレーキによる旋回アシスト)と奥底の横滑り抑制はセーフティネットとして残るため、リズムを崩さずにペースを引き上げることができます。
ハイグリップラジアルなどを装着し、タイヤ自体のメカニカルグリップを確保できた段階で、いよいよメンテナンスモードを試します。
グリップ限界の高いタイヤを履くことで、素のMR特有の唐突なリヤのブレイクを抑えやすくなります。旋回中の自動ブレーキによる熱ダレや引きずり感を完全に排除し、ドライバー自身の荷重移動だけで曲げる純粋なタイムアタックに挑戦できます。
愛車の限界を少しずつ引き出しながら、電子制御の首輪を段階的に外していくプロセスこそ、S660というミッドシップマシンと向き合う大きな醍醐味です。
愛車の真のポテンシャルを引き出す|サーキットで試したい隠し機能の価値
普段は車載ネットワークの奥底に眠っているこれらの隠しコマンドですが、手順さえ頭に入れておけば、余計な追加コストをかけることなく愛車の状態確認やサーキット仕様への切り替えが可能になります。
特にVSAをカットした状態のS660は、ドライバーの操作が一切のフィルターを通さずそのままタイヤに伝わるため、ステアリングやペダルワークの繊細さがダイレクトに試されるピュアなマシンへと姿を変えます。
安全マージンを最優先に確保しつつ、これらの機能を上手に活用して、サーキットでの走行フィールやタイムの変化をじっくり検証してみてはいかがでしょうか。
▼ S660後期型αの納車レビューはこちら|低重心な外観チェックやGR86・NSXとの車高比較、納車直後のリアルな所感を詳しく紹介しています。




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